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ネムリヒメ.
第26章 夜明け.
悲しいとか、辛いとか、恐かったとか…
泣きたいとか
胸が苦しいとか…
心臓は動いているけれど、それらはどこを探しても見つからない
胸のどこかにぽっかり穴があいたような感覚
その穴をいつかのようにまた、すきま風が通り抜けていく
胸が痛いんじゃなくてスースーする
そこにあるのは虚無…
─アタシの胸のなかは空っぽだった
それはいつかの自分を見ているようだった
でもそれがいつの自分かは知らない
知らない振りをしているだけなのかもしれないけれど、それこそ今は触れたくない
開けてはいけない"パンドラの箱"
アタシはその箱を、なにもない穴のあいた部屋の奥底へとしまい込む
なにをそこに隠したかだなんてもう忘れてしまった
鍵だってどこにいったのかだってわからない
だから、今は誰も触れないで…
誰も蓋を開けないで…
「もう…いいよ」
アタシは重たいカラダを持ち上げるように雅くんの胸にそっと触れた
「…アタシ、平気だよ」
感情が見つからない空の器でなにを思ったのか、なにも言わない彼の胸元にそう笑った自分がいた
それが彼の目にどんな風に映ったのかはわからない
笑ったつもりだけど、本当は自分がどんな顔をしているかわからなかった
でも、ひとつだけ…
ひとつだけわかっていることがあったんだ
「お前さ…」
なにも言わない雅くんが本当は一番に言いたいことを…
だけどそれを、
「…笑うの下手くそだな」
彼が絶対に口にしないってことを…