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ネムリヒメ.
第26章  夜明け.





あ………



「…───」


や、やだな…


「ッ…────!!」



……静かに、重く

呟かれた愁いを帯びたそんな声に、なぜか空っぽの空間に猛烈な旋風が巻き起こされた


"お前、笑うの下手くそだな…"


いつか聞いたような…

いつか誰かに言われたような…

そんな言葉に胸のなかを熱い風が吹き抜ける


「…ちゃんと笑えねぇくせにバカなこと言ってんな」


─あぁ、お願いだから

それ以上言わないで欲しい…


「頼むから…」


これ以上…


「…そんな顔して笑うなよ」


──────…ッ…!!


彼の聞いたことのない悲しそうな声に、それまでモノクロにしか映らなかった世界の輪郭が崩壊するように歪んだ

なんの抵抗もなく、どこまでも染み込んでくる雅くんの声に、瞳を覆っていた透明なスクリーンが剥がれ落ちる

押し当てられた胸から伝わってくる彼の切ないくらいの鼓動に、初めて胸が苦しくなった


言いたいことを呑み込んだままの彼の言葉は余りにも優しくて、それはまるで夜明けの鐘のように響く

ぽっかりとなにもない暗闇にいつまでも鳴り響く朝を告げる鐘…


「…あ……っ…、あ……ぁ…──」


気がつけばアタシは声をあげて咽び泣いていた

これといった感情は見つからないままのに、胸が苦しくて、痛くて…

ただ止めどなく溢れ出してくる涙に視界をダブダブに歪ませながら、

息が出来ないほど込み上げてくる嗚咽にいっぱいいっぱいに全身を震わせて






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