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ネムリヒメ.
第26章 夜明け.
そしてその唇は指先に暖かな温もりを残して瞼に移り…
伏せた睫毛に触れ、今はもう消えた涙の跡を拭うように頬を滑り、やがて唇にへと辿り着く
それは彼らの想いにも似た、胸にたくさん降り積もった柔らかな羽のような口づけで
何度もそれが唇に舞い降りるたびに、胸のなかでギザギザに削られたガラスの破片の縁が少しずつたいらに均されていくようだった…
「…葵くん、あのね」
「うん…?」
──嬉しかったの、アタシ…
雅くんも、聖くんも…
渚くんも
葵くんもね…
きっと本当は一番に言いたかった"それ"を
ずっと言わないでいてくれたことが…
"ゴメンね"って…
アタシが一番聞きたくない言葉を
ずっと胸にしまっておいてくれたことが…
世の中には声や言葉にしなきゃ伝わらないことってたくさんあるけれど、
だけどそうしなくても、それ以上の想いや声をたくさん伝えてくれたこともぜんぶ
…嬉しかったよ
──だからね、アタシ…
「…聞いて欲しいことがあるの」
「ちーちゃん、ッ─…!?」
そうまっすぐ彼を見つめると、先に言おうとしていることが伝わったのか、葵くんが少し目を見張った気がした
「…郁さんに会いたいの」
「………!!」
──進みたいんだ…
「…会って確かめたいことがあるの」
──逃げないで…
「思い出したの、アタシ…」
「………!!」
──だってひとりじゃないから…
「葵くんたちと初めて会った、あの日のこと…」