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あい、見えます。
第8章 見せて、触れて

何度も唇を啄んでから、佐々木が、そっと濡れた唇を離した。
「遥さん」
「……」
低くて甘い声に、すぐ目の前から自分の名前を呼ばれ、自然と顎を引いてしまう。
「傷つけたくないと、思っています」
「……ぇ」
「……」
何か奥歯にものがはさまったような言い方に、身体が微かに強張った。
さっきまでの心地よさとは違う、緊張による胸の鼓動が、不安を加速させる。
沈黙が怖くて、何か言おうとするのに、言葉が出なくて唇だけが動いた。
「……ん」
素早く、唇が塞がれた。
一瞬のキスは、微かに残るミントの香りがする。
佐々木の吐息が、柔らかく笑った。
「怯えさせてしまいましたね」
「え?」
「すみません。確認したかったんです」
佐々木の声に、もう迷いは感じられなかった。
「初めて、ですか?」
穏やかに、柔らかく問われた言葉に、顔が一気に熱を帯びた。
答えようが無い問いに、何だか恥ずかしくて居たたまれなくて。
濡れた唇を軽く噛むと、遥は目をキュッと閉じて俯いた。
(嫌がられたら、どうしよう)
嘘をつくつもりは無いのに、言葉は喉の奥に張り付いて出てこない。
面倒だと思われたり、厄介に思われたりしたくない。
初めてだと言ったら避けられてしまうんじゃないか。
そう思った途端、身体がスッと冷えかけた。
(あ……)
その時、右手に触れる佐々木の指に、ほんの少しだけ力がこもった気がした。
―――綺麗ですよ。
温かい手の感覚に、ゆっくり息を吐きながら、そっと瞳を開く。
「……」
光の宿らない瞳で、佐々木を見た。
拭い切れない不安が、口元を震わせていると分かっていたけれど、触れたままの手は、変わらずに温かい。
彼の気配に神経を集中すると、汗で冷えかける身体と裏腹に、胸の奥が、ゆっくりと花開くように温かくなるのを感じた。
「……、初めて、です」
小さく息を吸ってから、囁くように告げると、冷えかけた唇を温めるように、優しいキスが押し当てられた。

