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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第5章 ♠RoundⅣ(踏み出した瞬間)♠
 だが、紗英子の眼には何も映ってはいなかった。代理母出産。その言葉だけが頭の中を嵐に翻弄される木の葉のように回っていた。
 そういえば、と、今更ながらに思い出す。
 あの女性タレントは幡多ふゆ香ではなかったか。歳はもう三十歳は過ぎているはずだ。数年前、テレビ局のプロデューサーであった夫との間に第一子を妊娠したが、初期に子宮ガンが見つかり、妊娠十六週で胎児ごと子宮を摘出した。
 その後、不妊治療を始めたことで話題になった。既に子宮はないので、残っている卵巣から卵子を取り出し、夫の精子と顕微授精させてから代理母の子宮に戻すという方法が取られた。いわゆる代理母出産である。
 幡多ふゆ香の場合は精子と卵子は自分たち夫婦のものを使うため、他人の腹を借りるだけで、生まれてくる子は紛れもない実子ということになる。しかし、中には夫婦どちらかの精子や卵子の状態が良くないため、第三者―非配偶者のものを借りて代理母出産に臨む場合もある。
 いずれにしても、日本の現行の法律では認められていないので、海外へ渡って、外国人の代理母に出産を依頼しなければならない。従って、かかる費用も莫大なものがある。
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