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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第5章 ♠RoundⅣ(踏み出した瞬間)♠
たとえ、この計画が上手くいこうといくまいと、やれるだけのことをやれば良い。
若い子連れは紗英子が眺めているのに気づいてもいないのか、ゆっくりと下の道を通り過ぎていった。子どもが何か面白いことを言ったらしい。父親が子どもに何か話しかけ、母親は弾けるように笑った。
澄んだ笑い声が清澄な真冬の大気に溶けてゆく。ありふれた、けれど、心温まる和やかな光景である。名残惜しい気持ちで、親子連れを見送っていると、背後から声をかけられた。
「紗英」
紗英子はゆっくりと振り向いた。
「ごめんね。仕事中なのに」
有喜菜は首を振った。
「なに水臭いことを言ってるのよ?」
紗英子の隣に並んで座り、笑いながら言った。
「紗英が急に電話してくるなんて、よほどのことじゃないとないわ」
どうしたの、何かあったの?
姉のように優しく訊ねられ、紗英子は一瞬、後ろめたい想いに駆られた。一時は有喜菜が故意に、直輝と自分を仲違いさせようと企んで、時計コレクションのことを話したのだと勘繰ったこともあったからだ。
若い子連れは紗英子が眺めているのに気づいてもいないのか、ゆっくりと下の道を通り過ぎていった。子どもが何か面白いことを言ったらしい。父親が子どもに何か話しかけ、母親は弾けるように笑った。
澄んだ笑い声が清澄な真冬の大気に溶けてゆく。ありふれた、けれど、心温まる和やかな光景である。名残惜しい気持ちで、親子連れを見送っていると、背後から声をかけられた。
「紗英」
紗英子はゆっくりと振り向いた。
「ごめんね。仕事中なのに」
有喜菜は首を振った。
「なに水臭いことを言ってるのよ?」
紗英子の隣に並んで座り、笑いながら言った。
「紗英が急に電話してくるなんて、よほどのことじゃないとないわ」
どうしたの、何かあったの?
姉のように優しく訊ねられ、紗英子は一瞬、後ろめたい想いに駆られた。一時は有喜菜が故意に、直輝と自分を仲違いさせようと企んで、時計コレクションのことを話したのだと勘繰ったこともあったからだ。