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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第5章 ♠RoundⅣ(踏み出した瞬間)♠
が、やはりというべきか、紗英子は今までのように、素直に有喜菜に心を開けない自分を感じていた。直輝が紗英子には二十三年目にやっと披露したコレクションを、有喜菜には二十三年前に披露していた。そのことに拘っているのだ。
馬鹿げているとは思う。所詮は子ども同士のことにすぎず、直輝の妻となって年月を経た今、何をそこまで拘るのかと自分でも考えるが、理屈と感情が必ずしも一致するとは限らない。
依然として魚の小骨が喉にかかったような、些細だけれども不快感を憶えずにはいられない何かが紗英子の心から消えてくれない。ふさわしい表現がなかなか見つからないが、強いていえば、それは、ほのかな不信感であった。むろん、有喜菜に対してだけではない。夫に対しても似たような気持ちを抱いている。
「ねえ、紗英?」
紗英子の様子がいつもと違うことに気づいたのだろう。有喜菜が小首を傾げた。
「本当にどうしたの、何があった? 直輝と喧嘩でもしたの?」
突如として有喜菜の珊瑚色の唇から出た夫の名に、紗英子はピクリと反応した。
馬鹿げているとは思う。所詮は子ども同士のことにすぎず、直輝の妻となって年月を経た今、何をそこまで拘るのかと自分でも考えるが、理屈と感情が必ずしも一致するとは限らない。
依然として魚の小骨が喉にかかったような、些細だけれども不快感を憶えずにはいられない何かが紗英子の心から消えてくれない。ふさわしい表現がなかなか見つからないが、強いていえば、それは、ほのかな不信感であった。むろん、有喜菜に対してだけではない。夫に対しても似たような気持ちを抱いている。
「ねえ、紗英?」
紗英子の様子がいつもと違うことに気づいたのだろう。有喜菜が小首を傾げた。
「本当にどうしたの、何があった? 直輝と喧嘩でもしたの?」
突如として有喜菜の珊瑚色の唇から出た夫の名に、紗英子はピクリと反応した。