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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第5章 ♠RoundⅣ(踏み出した瞬間)♠
紗英子は、きっぱりと言った。
「構わないわ」
もう一度、正面から友の顔を見据える。
「そのときはそのときで、仕方ないと諦める。もちろん、途中で万が一のことがあっても、お礼はちゃんと支払うから」
「途中で流産や死産になったとしても、全額支払うと?」
「ええ、ちゃんと約束どおりのお金を渡すわよ」
有喜菜が息を呑んだ。
「あなた―、本当にやる気なのね」
「当たり前でしょう。先刻も言ったじゃない。冗談でこんなことを言ったりはしないって」
「でも、直輝は―」
言いかけた有喜菜の言葉を塞ぐように、紗英子は断じる。
「夫には、あなたの名前は言わないわ」
「―」
「クリニックで紹介して貰った、どこの誰かも判らない女性だと話すつもりよ」
再び長い沈黙があった。
その永遠とも思われる沈黙の時間を、今度もまた紗英子は辛抱強く待った。紗英子には判っている。既に有喜菜の気持ちも決まっているはずだ。今の沈黙の長さは彼女の迷いではなく、事態の複雑さを整理し、理解しているにすぎない。
「構わないわ」
もう一度、正面から友の顔を見据える。
「そのときはそのときで、仕方ないと諦める。もちろん、途中で万が一のことがあっても、お礼はちゃんと支払うから」
「途中で流産や死産になったとしても、全額支払うと?」
「ええ、ちゃんと約束どおりのお金を渡すわよ」
有喜菜が息を呑んだ。
「あなた―、本当にやる気なのね」
「当たり前でしょう。先刻も言ったじゃない。冗談でこんなことを言ったりはしないって」
「でも、直輝は―」
言いかけた有喜菜の言葉を塞ぐように、紗英子は断じる。
「夫には、あなたの名前は言わないわ」
「―」
「クリニックで紹介して貰った、どこの誰かも判らない女性だと話すつもりよ」
再び長い沈黙があった。
その永遠とも思われる沈黙の時間を、今度もまた紗英子は辛抱強く待った。紗英子には判っている。既に有喜菜の気持ちも決まっているはずだ。今の沈黙の長さは彼女の迷いではなく、事態の複雑さを整理し、理解しているにすぎない。