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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第5章 ♠RoundⅣ(踏み出した瞬間)♠
「来週、一度、S市のクリニックに行くことになってるの。できれば、あなたも都合を合わせて行って欲しいわ。こうと決めたら、早いほうが良いものね。多分、そのときにひととおり健康状態のチェックとかもすると思うの。もちろん、私も卵子の状態を調べるわ」
 妊娠できるかどうか、妊娠しても継続することができるか。そういった面に関して細部に渡って調べることになるだろう。
「判った。日にちが決まったら、連絡して。その日に合わせて休みを取るから」
 有喜菜の口調は極めて事務的だった。その表情も淡々としていて、彼女が代理出産を引き受けたことを後悔しているのかどうかまでは判らない。
「それじゃあ、風邪なんか引かないように気をつけて」
 別れ際、紗英子は有喜菜に微笑みかけた。もちろん、その言葉は有喜菜本人のために言ったわけではなく、いずれは紗英子と直輝の大切な赤ちゃんをその身に宿すことになる女に対して言ったのだ。
 紗英子の気持ちが伝わったのかどうか、有喜菜は曖昧な笑みを浮かべただけで何も言わずに去っていった。
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