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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第5章 ♠RoundⅣ(踏み出した瞬間)♠
そのときの有喜菜の表情は長らく紗英子の脳裏から消えることはなかった。何故だろう、期待どおりに有喜菜が代理母となることを引き受けたというのに、紗英子は心が弾まなかった。
―直輝の子どもを生むわ。
きっぱりと宣言した有喜菜の言葉の裏には、何か彼女の強い意思のようなものが隠されているように思えてならなかった。もしかしたら、有喜菜はこう言いたかったのではないか。
―あなたの子どもではなく、直輝の子どもを生むわ。
と。
もちろん、それは紗英子の勘ぐりであり、取り越し苦労にすぎないだろう。しかし、去ってゆく有喜菜の後ろ姿をその場で茫然と見送りながら、紗英子は自分が何か取り返しのつかないことをしてしまったのではないかと思い始めていた。
そして、慌てそんな想いを打ち消す。
馬鹿な、ここまで来て、迷いは禁物だ。自分は正しいことをしているはずではないか。
―直輝の子どもを生むわ。
きっぱりと宣言した有喜菜の言葉の裏には、何か彼女の強い意思のようなものが隠されているように思えてならなかった。もしかしたら、有喜菜はこう言いたかったのではないか。
―あなたの子どもではなく、直輝の子どもを生むわ。
と。
もちろん、それは紗英子の勘ぐりであり、取り越し苦労にすぎないだろう。しかし、去ってゆく有喜菜の後ろ姿をその場で茫然と見送りながら、紗英子は自分が何か取り返しのつかないことをしてしまったのではないかと思い始めていた。
そして、慌てそんな想いを打ち消す。
馬鹿な、ここまで来て、迷いは禁物だ。自分は正しいことをしているはずではないか。