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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第5章 ♠RoundⅣ(踏み出した瞬間)♠
 あれも今から考えれば不自然なことだったかもしれない。もしかしたら、有喜菜は直輝を好きだったのだろうか。思えば、そんな節はなきにもしあらずだった。
 ―だからこそ、二年になって有喜菜と直輝が別々のクラスになり、今度は自分が彼と一緒のクラスになるやいなや、紗英子は直輝に急接近し、自分から告白したのである。まるで有喜菜が彼の側からいなくなるのを待っていたように、直輝に近づいたのだ。
 もっとも、その時、まだ有喜菜と直輝は付き合っていたわけでもないし、傍目には、ただの喧嘩友達―むしろ男同士の友情に近いものを築いているように見えた。だが、それはあくまでも、見た目にすぎず、同人同士の間に何があり、どのような心の交流があったのか、もしくは秘められていたのかまでは判らない。
 有喜菜にしてみれば、クラス替えをした途端、親友である紗英子が直輝を奪うように彼氏にしてしまった―と思ったとしても不思議ではない。
 まあ、いずれにせよ、代理出産を頼む女が有喜菜であることは夫には伏せておいた方が良い。有喜菜の挙動にいささか疑わしいところがあると判った今では、余計に黙っていた方が賢明というものだろう。
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