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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第5章 ♠RoundⅣ(踏み出した瞬間)♠
もっとも、紗英子は元から有喜菜のことを直輝に話すつもりはなかったが。有喜菜にも言ったように、代理母はクリニックで紹介された名も知らぬ女性だと言うつもりだ。子どもが生まれてからの親権の問題を煩雑にしないためにも、個人情報守秘の義務があり、互いの住所や名前は知らされないのだと。
何故、有喜菜を代理母に選んだのかと訊かれれば、紗英子にも、はきとした応えはない。ただ、いちばん身近にいる妊娠できる身体を備えた女性ということで、真っ先に有喜菜の顔を思い浮かべた。いや、というよりは、有喜菜しか考えられなかったのだから、やはり、自分は彼女に信頼を寄せているのだろう。
信頼? いや、信頼というよりは、自分たち夫婦の共通の友人である彼女であるからこそ、やはり待ち望んだ赤ん坊を生むのは有喜菜であるべきだという強い想い―信念のようなものを感じたのかもしれない。
前方から小学生の一団が賑やかに歩いてくる。数人群れているのは一年生らしい。ピカピカの真新しいランドセルが冬のやわらかな陽射しに映えて眩しかった。
小さな身体にはまだ不似合いなほど大きなランドセルを背負い、彼等は歓声を上げながら歩いてゆく。可愛い一年生たちを見送りながら、紗英子は思う。
何故、有喜菜を代理母に選んだのかと訊かれれば、紗英子にも、はきとした応えはない。ただ、いちばん身近にいる妊娠できる身体を備えた女性ということで、真っ先に有喜菜の顔を思い浮かべた。いや、というよりは、有喜菜しか考えられなかったのだから、やはり、自分は彼女に信頼を寄せているのだろう。
信頼? いや、信頼というよりは、自分たち夫婦の共通の友人である彼女であるからこそ、やはり待ち望んだ赤ん坊を生むのは有喜菜であるべきだという強い想い―信念のようなものを感じたのかもしれない。
前方から小学生の一団が賑やかに歩いてくる。数人群れているのは一年生らしい。ピカピカの真新しいランドセルが冬のやわらかな陽射しに映えて眩しかった。
小さな身体にはまだ不似合いなほど大きなランドセルを背負い、彼等は歓声を上げながら歩いてゆく。可愛い一年生たちを見送りながら、紗英子は思う。