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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第5章 ♠RoundⅣ(踏み出した瞬間)♠
「何度でも同じ科白を繰り返すわ。あなたが良いと言うまではね」
「お願いだから、直輝さん」
 直輝の足許に縋り付くのと、紗英子の身体が後方に飛んだのは同時だった。
「良い加減にしろッ。止せと言ってるのに、まだしつこく繰り返すつもりか?」
 決死の覚悟で脚に縋り付いた紗英子を、直輝が振り払ったのだ。直輝本人にはそのつもりはなくても、結果としては紗英子を蹴り上げたのと同じことになった。
 小柄な紗英子は後方に飛び、腰をしたたか打った。一瞬、痛みを感じたものの、紗英子は立ち上がり、キッチンへと走った。
 キッチンの流しに行くと、包丁立てから、眼に付いた包丁を握りしめリビングに駆け戻る。  
「もし、あなたがどうしても協力しないと言い張るのなら、私は今、ここで生命を絶つわよ。元々、子どもができない、いない人生なんて、生きていても仕方がないと思っていたの。いよいよ子宮を取ることになったときも、何度自殺しようかと思ったわ。それがまだ少しでも見込みがあると判ったんだもの、試してみない法はないでしょ。もし、それでも駄目なら、諦めもつくけど、やりもしない中から諦めるなんて考えられない」
 紗英子は刃物を両手に握りしめ、喉元に当てた。
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