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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第6章 【後編】 ♦RoundⅤ(覚醒)♦
自分が健康な子どもを授かる可能性があると聞かされたときも、正直、有喜菜は何の感慨も湧かなかった。当然だろう、幾ら健やかな子どもであろうと、これから自分が身籠もろうとする赤ん坊は我が子ではない。よく借り腹という言葉があるけれども、まさに、代理母は借り腹にすぎないのだ。十月(とつき)十(とお)日(か)、自分の子宮で育て生命賭けで産み落としたとて、それは所詮、他人の子。有喜菜の子どもではない。
 自分の血を一滴たりとも引かない赤ん坊をどうして愛しいなどと思えるだろう。こんなことは馬鹿げている。常識や分別のある人間ならば、代理母出産など頼まれても―たとえいかほどの報酬を積まれようと即座に断るべきものだ。
 自分たち夫婦の子どもを生んで欲しい、代理母になって欲しいと頼まれた刹那、有喜菜は紗英子に裏切られたような気持ちになったものだ。少なくとも、有喜菜は紗英子を親友だと信じてきた。だが、親友だと思っていた女は、ただ有喜菜を利用価値のある道具だとしか見なさなかった。
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