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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第6章 【後編】 ♦RoundⅤ(覚醒)♦
 どうやら、あの様子では、有喜菜が醒めた眼で昔の親友を見ていることなど考えてもいないのではないか。
 全っく、どこまでもおめでたいというか、自分勝手な女。
 またしても苛立たしい想いに駆られながら、有喜菜は呟いた。
「喉が渇いたんだけど」
 紗英子がハッとした表情になった。
「あっ、そう? そういえば、そうよね。私ったら、気がつかなくて、ごめんなさい」
 紗英子は慌てて立ち上がり、傍らのバッグを手にした。
 今、有喜菜が入っている部屋も特等個室であり、贅を凝らしたこのクリニックの部屋の中でもひときわしゃれた内装である。恐らく聞いてはいないが、一日が相当の値段につくはずだ。
 有喜菜がその部屋を望んだ時、紗英子は一瞬、顔を曇らせたものの、すぐに笑顔で〝良いわ〟と頷いた。有喜菜の胎内に受精卵を戻す処置自体は無事に終わったはずだが、経過観察と用心のために、最初から一泊することに決まっていた。
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