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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第6章 【後編】 ♦RoundⅤ(覚醒)♦
 直輝が代理出産に関して、どう考えているか。それについて、紗英子は一度も語ったことはない。しかし、中学時代からの直輝の性格を考えて、彼がこの話に全面的に賛成しているとは到底思えなかった。第一、直輝が賛成している、もしくは乗り気であれば、治療に一度も顔を出さないのは不自然すぎる。
 仕事があるから、普段付き添えないのは理解もできるが、幾ら何でも一度もクリニックに来ないのはおかしい。そのことから、有喜菜はやはり、彼が代理出産に否定的なのだろうと考えていた。
 ただ一度だけ、いつもクリニックには一緒に通った紗英子が一人で受診したことがあった。それは有喜菜も紗英子から話を聞いて知っている。恐らく、その日に直輝が一緒だったのではと見当はついた。体外受精に非配偶者、つまり夫以外の精子を使うのなら別だが、夫のものを使うのであれば、夫の来院は必ず一回は必要だ。
 有喜菜は付き合いも長い分、直輝と紗英子の性格を知り抜いている。紗英子もまた、直輝以外の男の子どもを代理母を使ってまで望むような女ではないのだ。恐らく、紗英子がここまで子どもを持つことに拘るのも、直輝の血を引く子どもだからこそなのだ。紗英子にとって、他の見も知らぬ男が、紗英子自身の子どもの父親であってはならないはずだ。
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