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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第6章 【後編】 ♦RoundⅤ(覚醒)♦
 仮に有喜菜が紗英子の立場なら、もっと今、手にしているものを大切にしただろう。代理出産という神の倫理に反した方法で強引に子どもを得ようとするのではなく、子どもはいなくても夫と二人だけの時間を大切にしようと考えるに違いなかった。そこが、自分と紗英子の考えの決定的な違いであった。
 もちろん、代理出産が間違っているとか、悪いというわけではない。それは個人的な思惑で決めることだろうし、現実に子どもを望む夫婦にとっては、たとえどんな手段を取ろうと、赤ちゃんを授かることができるのであれば試してみたいと思うのもまた当然の心理だ。
 あくまでも、有喜菜にとっては、肯定できる話ではなかったというだけのことにすぎない。
 実家から借金をしてまで挑戦しようとする代理出産。紗英子の立場では、無駄な出費はできるだけ抑えたいところだろう。それを知りながら、わざと特別室に入りたいと望む自分もまた、どういう人間なのか。本当は部屋なんて大部屋でも良いのに、紗英子を困らせてやりたくて、高価な部屋に入りたいと無理を突きつける。
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