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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第6章 【後編】 ♦RoundⅤ(覚醒)♦
紗英子のとんでもない依頼を引き受けてしまったそのときから、もしかしたら、自分も似た者同士になったのかもしれない。何が大切で、何が必要なのか正常な判断もつかなくなってしまった―。
あるのは、ただ紗英子にはできないことを、この自分が成し遂げうるかも知れないという愚かな優越心と、そんな醜い自分を認めたくないという自己嫌悪。
有喜菜がぼんやりと物想いに耽っている間に、紗英子はいつしか部屋を出ていっていた。有喜菜が喉が渇いたと訴えたものだから、慌ててジュースでも買いにいったのだろう。
受精卵を子宮に戻す処置が行われる少し前くらいから、紗英子はどうも有喜菜の顔色を窺うような節が見られるようになった。有喜菜を苛立たせたり、怒らせたり―要するに必要以上に感情を波立たせまいと細心の注意を払っているのが判った。
別にそこまで気を遣わずとも、この治療に影響は出ないだろうと思うのだが、当の紗英子にすれば、居ても立ってもいられない心地なのだろう。有喜菜の一挙手一投足に顔色を変え狼狽える紗英子の様子は、滑稽でもあり憐れでもあった。
あるのは、ただ紗英子にはできないことを、この自分が成し遂げうるかも知れないという愚かな優越心と、そんな醜い自分を認めたくないという自己嫌悪。
有喜菜がぼんやりと物想いに耽っている間に、紗英子はいつしか部屋を出ていっていた。有喜菜が喉が渇いたと訴えたものだから、慌ててジュースでも買いにいったのだろう。
受精卵を子宮に戻す処置が行われる少し前くらいから、紗英子はどうも有喜菜の顔色を窺うような節が見られるようになった。有喜菜を苛立たせたり、怒らせたり―要するに必要以上に感情を波立たせまいと細心の注意を払っているのが判った。
別にそこまで気を遣わずとも、この治療に影響は出ないだろうと思うのだが、当の紗英子にすれば、居ても立ってもいられない心地なのだろう。有喜菜の一挙手一投足に顔色を変え狼狽える紗英子の様子は、滑稽でもあり憐れでもあった。