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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第3章 ♠RoundⅡ(哀しみという名の現実)♠
♠RoundⅡ(哀しみという名の現実)♠

 我知らず溜息をついたそのときだった。静寂ばかりが重く淀む室内に、携帯電話の鳴る音がやけに大きく響き渡った。
 紗英子はついピクリと身を震わせた。しじまをつんざくように鳴り響くその音が何か途方もなく不吉な出来事の起きる前触れのような気がした。
 そこで、紗英子は自嘲気味に笑う。ずっと待ち望んできた赤ちゃんを永遠に失ってしまったんだもの。もう、これ以上、悪いことなんて起きるはずもない。
 ずっと長年抱えていた子宮筋腫も取ってしまったし、体調はかえって以前より良いほどだ。紗英子はまだ三十五歳だし、他にはこれといった持病もないから、これで本当の意味で健康な身体になれたのだともいえる。
 携帯電話は相変わらず、けたたましく鳴り響いている。
 紗英子は何故か出たくないという想いに駆られたが、そういうわけにもゆかない。渋々、携帯を手に取った。
「もしもし」
―もしもし、紗英?
 聞き憶えのある声音に、紗英子は一瞬、眼を見開いた。
「有喜菜! 有喜菜ね」
「そのとおり、私、有喜菜よ」
 宮澤有喜菜。直輝と紗英子の共通の友人であり、二十三年に渡って付き合っている幼なじみでもある。
―ごめんね。仕事の方が忙しくて、お見舞いにも行けなくて。
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