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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第3章 ♠RoundⅡ(哀しみという名の現実)♠
 有喜菜は保険外交の仕事をしている。四年前に、夫と離婚して今はシングルだ。今はパートとして雇われているが、いずれは正社員として勤務することが目標だと聞いているから、会社をそうそう休むことができないのは紗英子も理解しているつもりだ。
「良いのよ。生きるか死ぬかっていうようなものじゃなかったんだし」
 屈託なく言うと、受話器の向こうから、どこかホッとしたような声が返ってくる。
―心配してたんだけど、声も元気そうだし、安心したわ。ねえ、もう出かけられるの?
「近くで少しの間くらいなら、大丈夫だと思うけど」
―なら、少し出てこない? 気晴らしにお茶でもしましょうよ。紗英もずっと家に閉じこもりきりじゃ、気が塞ぐでしょ。
「そうね、少しくらいなら良いわ」
 時間と場所を決めて、電話を切る。
 実に久しぶりの外出である。相手が女友達であろうが、心は弾んだ。いや、相手が長年の友達だからこそ、余計に惨めな姿は見せられないと思った。
 女であることを止めてしまえば、それこそ、本当の意味で終わりになる。たとえ子宮はなくなったとしても、自分はまだ〝女〟なのだ。
 紗英子は自室に戻り、ドレッサーの前に座った。やはり、手術後まもないからか、顔色が悪い。血の気がなく、どこか黒ずんだような顔にファンデーションを塗り、更に上から白粉をはたいた。顔色の悪さをごまかすために、チークやハイカラーをそれぞれの箇所に入れる。
 元々薄くて細い眉をきれいに描き、仕上げに濃いめのアイシャドウを乗せて終わった。忘れていたことに気づき、慌ててルージュを引く。これも常よりは濃いめで鮮やかなローズピンクだ。
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