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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第9章 RoundⅧ(溺れる身体、心~罠~)♦
 想いに沈む有喜菜の耳を、直輝の声が打った。
「もう、遅すぎるんだろうか」
 有喜菜は俄に現実に引き戻され、弾かれたように顔を上げる。
 直輝がふいに洩らした呟きには、意外にも懇願するような響きがあった。
「え?」
 意味を図りかねて問うと、いきなり覆い被さってきて、烈しく貪るような口づけをされた。
「君が好きだ、いや、ずっと好きだった」
 有喜菜は我が耳を疑い、愕然とした。
「でも、あなたが選んだのは紗英子よ」
 直輝は噛みつくように言った。
「違う。俺は最初から君だけを見ていたのに、君は俺を見ようともしなかった」
「それは違うわ。私だって、あなたのことを」
 言い淀んだ有喜菜を、直輝は燃えるような眼で見つめた。
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