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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第9章 RoundⅧ(溺れる身体、心~罠~)♦
「―違うのか?」
有喜菜は低いけれど、きっぱりとした声で応えた。
「そんな男はいなかったわ」
「じゃあ、あいつが嘘を?」
有喜菜は何も言わなかった。言えるはずがない。紗英子は直輝の妻なのだ。長年信じ連れ添った人生の伴侶を直輝の前で貶めるようなことはできない。それは紗英子へのというよりは、直輝へのせめてもの思いやりだ。
直輝が信じられないといった面持ちで烈しく首を振った。
「馬鹿な、紗英子が俺に嘘を告げたのか? あいつは君には他に好きな奴がいるらしいと無邪気な顔で俺に話し、俺は疑うこともなく、それを信じた」
直輝は絶句し、やりきれないといった様子で首を振る。
「だから、紗英子の告白を受け容れた。あいつには申し訳ないが、紗英子と付き合い始めたときの気持ちの中には半ば自棄のようなものもあった」
有喜菜は低いけれど、きっぱりとした声で応えた。
「そんな男はいなかったわ」
「じゃあ、あいつが嘘を?」
有喜菜は何も言わなかった。言えるはずがない。紗英子は直輝の妻なのだ。長年信じ連れ添った人生の伴侶を直輝の前で貶めるようなことはできない。それは紗英子へのというよりは、直輝へのせめてもの思いやりだ。
直輝が信じられないといった面持ちで烈しく首を振った。
「馬鹿な、紗英子が俺に嘘を告げたのか? あいつは君には他に好きな奴がいるらしいと無邪気な顔で俺に話し、俺は疑うこともなく、それを信じた」
直輝は絶句し、やりきれないといった様子で首を振る。
「だから、紗英子の告白を受け容れた。あいつには申し訳ないが、紗英子と付き合い始めたときの気持ちの中には半ば自棄のようなものもあった」