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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第9章 RoundⅧ(溺れる身体、心~罠~)♦
 有喜菜は今度という今度は、官能の焔に跡形も残らないほど完全に呑み込まれ灼き尽くされた。
「今度は代理出産などという形ではなく、こうやって俺をちゃんと受け容れて、俺の子を産んでくれ」
 欲情に濡れた声が熱い飛沫と共に有喜菜に注ぎ込まれる。
 まだ烈しい行為の名残にたゆたっている有喜菜を直輝が背後から抱きしめる。
「もう離さない」
 そっと有喜菜を抱き寄せて髪に鼻先を埋めながら、聞いている者が辛くなるような切ない口調で呟いた。
 その言葉は、有喜菜の心を鷲掴みにした。
 紗英、あなたが悪いのよ。
 有喜菜は心の中で紗英子に呼びかける。
 もう引き返せない、戻れない。
 自分は二度と引き返せない修羅の橋を渡ってしまった。たとえ友と呼んだ仲であろうと、その人の夫であろうと、有喜菜は自分が直輝の掴んだ手を放すことはできないだろうと思った。
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