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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第9章 RoundⅧ(溺れる身体、心~罠~)♦
有喜菜は小さなお守りを眺めた。金地に朱で〝安産〟と刺繍されている。わざわざこのお守りを買うために、紗英子は新幹線に片道数時間乗って奈良まで出かけてきたのだ。
 ひと月前までの有喜菜なら、鼻で嗤って、もしかしたら、そのままゴミ箱に棄てたかもしれない。でも、今はできなかった。
 別に直輝の気持ちをはっきりと知って、紗英子に同情めいた気持ちを抱いたわけではない。それは、紗英子に対して、あまりにも失礼というものだろう。
 ただ、夫の―最も愛していた男の心を失ってまで得ようとしたもの、それが紗英子にとっては我が子であり、赤ん坊であった。その大切な赤ん坊を託されている身であれば、子どもの無事な誕生をひたすら願う母としての紗英子の心を無下にはできないと思ったのである。
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