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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第10章 ♦RoundⅧ 予知夢~黒い霧~♦
 一階まで降り、受付で子どもを連れて帰ることを告げて外に出た。
 玄関から続く庭を歩いていく中に、紗英子の眼に映じたグラジオラスの花が涙にぼやけて滲んだ。
 そのままぼんやりと歩いていると、ふいに腕の中の赤ん坊が泣き出した。
「あらあら、どうしちゃったの?」
 紗英子は狼狽え、赤ん坊を揺すり上げる。出産に備えて育児書はたくさん読んで知識は詰め込んだつもりだけれど、実践が伴わないのだ。
「ええと、まずは襁褓、それからミルク―」
 育児雑誌でたたき込んだ知識を総動員しかけたその時、向こうから若い看護士が歩いてくるのが見えた。顔見知りなので、挨拶する。
「こんにちは」
「まあ、こんにちは。そうかー、今日、赤ちゃんの方は退院なんですね」
 看護士は丸い顔をほころばせた。
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