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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第3章 ♠RoundⅡ(哀しみという名の現実)♠
「ねえ、どうやったら、諦められるの?」
それは直輝にというよりは、自分に向けて発せられた問いであった。
一瞬、直輝が息を呑んだ。
「おい、紗英子」
妻の尋常でない様子に気づいたのだろうか、直輝は整った顔を強ばらせたまま、なすすべもなく妻を凝視していた。
どれくらいの時間が流れたのか。
「紗英子」
優しく名を呼ばれ、紗英子はゆるゆると顔を上げた。多分、それは時間にしては、たいした長さではなかったはずだ。それでも、紗英子には途方もなく長い沈黙のように思えた。
あっと思ったときには、直輝に膝裏を掬われて抱き上げられていた。
「お前は昔から、物事をとことん突き詰めて考えてしまう癖がある。そういうのも良いときもあるけど、かえって余計に自分を追い込む羽目になることだってあるんだ。今は何も考えるな」
直輝は幼い子どもに言い聞かせるように話しかけながら、リビングを出て向かい合わせの寝室のドアを開けた。
二人用のベッドにそっと降ろされ、紗英子は夫を見上げた。淡いナイトスタンドの明かりだけが照らす寝室は森閑として、まるで深い深い水底(みなそこ)のようだ。夫の表情は薄闇の中では定かではない。
それは直輝にというよりは、自分に向けて発せられた問いであった。
一瞬、直輝が息を呑んだ。
「おい、紗英子」
妻の尋常でない様子に気づいたのだろうか、直輝は整った顔を強ばらせたまま、なすすべもなく妻を凝視していた。
どれくらいの時間が流れたのか。
「紗英子」
優しく名を呼ばれ、紗英子はゆるゆると顔を上げた。多分、それは時間にしては、たいした長さではなかったはずだ。それでも、紗英子には途方もなく長い沈黙のように思えた。
あっと思ったときには、直輝に膝裏を掬われて抱き上げられていた。
「お前は昔から、物事をとことん突き詰めて考えてしまう癖がある。そういうのも良いときもあるけど、かえって余計に自分を追い込む羽目になることだってあるんだ。今は何も考えるな」
直輝は幼い子どもに言い聞かせるように話しかけながら、リビングを出て向かい合わせの寝室のドアを開けた。
二人用のベッドにそっと降ろされ、紗英子は夫を見上げた。淡いナイトスタンドの明かりだけが照らす寝室は森閑として、まるで深い深い水底(みなそこ)のようだ。夫の表情は薄闇の中では定かではない。