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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第3章 ♠RoundⅡ(哀しみという名の現実)♠
「直輝さん?」
 直輝の心情がよく判らないだけに、紗英子はつい心細い声を出していた。
「久しぶりに、しようか?」
 それは直輝が実に久しぶりに発した誘いの言葉、はっきり言えば、セックスしようという合図だった。
 新婚時代はともかく、不妊治療を始めてからというもの、直輝からあからさまに誘ってきたことはなかった。直輝は基本的に不妊治療を嫌がっていた。医師から排卵日に合わせて指示される夫婦の営みというものを嫌っていたのだ。
―まるで義務のように思えて、重荷としか思えない。
 しょっちゅう零していた。
 しかし、辛いのは紗英子も同じだった。
―疲れたと言ってるだろうが! 幾ら医者に言われたって、こっちとら都合もあるんだぞ。とにかく今夜はその気になれない。
―そんなこと言わないで。
 紗英子は涙ながらに直輝に懇願したものだ。
―今夜に合わせて排卵がうまく起こるように注射して薬まで飲んだのよ? 今夜のチャンスを逃せば、また長い間、次の排卵日まで待たないといけないのに。
 そのときもまた〝仕事で疲れた、その気にならない〟のひと言で片付けられてしまったら、自分はどうすれば良い?
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