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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~
第4章 ♠ RoundⅢ(淫夢)♠ 
 紗英子はゆっくりと身を起こした。直輝の視線が露わになった乳房に注がれている。そのまなざしにまだ情事のときの熱さと衰えることのない獣じみた欲望を感じ取って、紗英子は頬を赤らめた。慌て上掛けを引き上げ、胸許を隠す。
 しかし、悪い気分ではなかった。またもや、夫に愛され、満たされた妻の心―などと、いつか女性誌で読んだ記事のタイトルが浮かんでくる。それはセックスレスの女性には到底、縁のない言葉。
 そう、私は満たされている。夫にこんなにも愛されている。この私ほど幸せな女がいるだろうか?
 かすかな優越感に浸っていると、自然に一人の女の顔が脳裏をよぎった。
 直輝が紗英子の胸許から視線を外し、ゆっくりと動かした。何を考えているのか、宙に視線をさまよわせている。
「この―時計」
「ん?」
 直輝が小首を傾げた。これも夫の癖の一つだ。中学時代からの数ある癖。中三の時、練習試合でサッカーボールが右耳に当たり、少し聴力が落ちた。よく聞こえない時、直輝はこんな風に心もち首を傾ける。
 直輝の仕草の一つ一つがこんなにも愛おしい。自分の中にまだ、夫への愛情がこれほど残っていたこと、この男が自分にこれほどまでに影響力を持つことに紗英子は今更ながらに愕いていた。
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