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真夜中の贈り物
第15章 薔薇のひとつ
※ ※ ※
「ここは俺の私室だ。湯を張らせてある、まずは体を洗っておけ、着替えを持ってきてやる」
そう言って、フェリックスはノヴァリスを連れてきた別室に閉じ込め、一人にした。
逃げられるとは考えてもいないようだ。
確かに、部屋の中には椅子やベッドの他には、湯の張られた浴槽が置いてあるだけで、何か武器になりそうなものはなかった。窓もなく、出口はただひとつ、フェリックスの出て行った扉だけ。
簡素な部屋……いや、壁や床などの装飾を見れば元は贅を尽くした部屋だったのかもしれない。先程までいた大広間もそうだった。
ただ、まったく手入れをされておらず、あちこち埃まるけで、天井には蜘蛛の巣が張り放題に張られている。どうやら、持ち主がなくなり打ち捨てられた貴族の別荘か何かを野盗の彼らが見つけてアジトにしたものらしい。
丸裸にされたまま、他にどうすることもできず、ノヴァリスは浴槽へと近寄った。
白い陶器でできた小さなこの浴槽もどこかから拾って来たのだろう。古ぼけていて見栄えはよくなかった。
しかし、立ち昇る白い湯気からはかすかな薔薇の香りがするようで、それが彼女の記憶を刺激をした。
(この香り……最近、どこかで嗅いだことがあるような……そうだ)