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真夜中の贈り物
第15章 薔薇のひとつ
今までもそれを考えたことがなかったわけではない。
市民が武器を手に蜂起して王宮へと押し寄せる、そんな光景が現実味を帯びる時代なのだ。
花の都の高名とは裏腹に、この国のはらわたには腐った汚物が詰まりすぎていた。民を搾取する役人。堕落した聖職者たち。私服を肥やす事しか頭にない貴族。特権階級の専横がはびこるのを見逃すばかりか、結託して怠惰な享楽を貪る王。
ノヴァリスとて、それを良しとするものでも、与する者でもない。
むしろ、そんな世を変えるため、唯一の希望である枢機卿を助けようと近衛隊に入ったのだ。
だが、他の者には……フェリックスやその配下の者たちにとっては、政治というやり方よりも、もっと直接的で手っ取り早い方法があると思えるのだろう。たとえ、それで流れるのが、自分の憎む者の血だけではないとしても。
「私はどうすれば……」
ノヴァリスは指にはめた真鍮の指輪に向かって呟いた。
なぜなら、それが近衛兵の隊長の証、彼女が背負った責任そのものだったから。
そう、武器庫の鍵……それは、この指輪だった。
この指輪の石に彫られた紋章を鍵穴にあてがって回せば扉は開かれる。
(このことをフェリックスに気づかれてはならない、私の命……部下の命を代償に迫られようと)