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真夜中の贈り物
第15章 薔薇のひとつ
破壊されることなく大きく開け放たれていた武器庫の扉の前でしばし佇むと、ノヴァリスは、あちこちで後片付けに終れる兵士たちを後に離宮へと向かった。枢機卿への報告のためである。
「そなたが無事で良かった……」
枢機卿は彼女の姿を見るなり、そう言って駈け寄ってくれた。
「猊下、しかし奥方様を、私は……」
守りきれなかった。
失われた命。それは、夫人のものだけではない。
きっと、野盗も市民も、そして兵士たちも……自分が任務を全うしていれば今は生きて笑っていたかもしれない。
跪きうなだれるノヴァリスの肩に手を置いて、枢機卿が優しく言葉をかける。
「そなたのせいではない……あれは民から恨まれていた。それは夫である私が政務にかまけてかまってやらなかったせいでもある。それに、フェリックスは外国の間者ともつながりを持っていたようだ。隣国のエスパードが国境で軍を動かすのに呼応して、王都に騒乱を起こしたのだ」
驚いたノヴァリスが顔を上げると、安心させるように枢機卿は急いで先を続ける。
「……事前に情報を掴んでいたため、エスパード軍への対処のほうはラ=フェール卿の転戦が間に合った。いくつかの農村を焼かれはしたが、どうにか収まったと連絡を受けている」