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真夜中の贈り物
第15章 薔薇のひとつ
牝の本能を覚醒せる匂いにまかれて身体がうずき初める。
理性とは、かくも簡単に遠ざけられてしまうものなのか。
肉の悦びを知った今ならわかる。
それは、抗いがたいほどの人の本性なのだと。
どんな信念も、美徳も、信仰も、その前には嘘はつけぬ。
王都きっての美徳を謳われし、彼女の敬愛する枢機卿であってさえも。
そのほの暗い欲望を持っていたのだ。
がくり、と力なく床に膝を落として彼女は前を見た。
欲しいものはそこにある。
求めれば与えようと、その威容を誇示している。
身を任せてしまえば自分はどうなるのだろう?
この国の未来は……。
だが、そんな想いもあと数秒もすれば消え失せよう。
だらしなく開かれた口の端から、いやしく唾液が垂れ落ちる。
「私は……あ、ああんっ……私は……」
そしてノヴァリスは愛しいものに口づけをして、自らの忠誠を明かした。
自分はこの男に奪われよう。
身も心も捧げるのだと
《薔薇のひとつ 了》