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Memory of Night
第8章 花火
確か、あすかと呼ばれていた気がする。
あすかは蛍の光を追って母親のそばを駆け出すと、必死でその光に向かって両手を伸ばした。
宵の姿には気付かない。
下駄のせいでうまく走れず、何度もつまずきそうになり、その度に足を引きずるようにしてなんとか光に触れようと背伸びする。
母親は、慌てて娘を追いかけ片手を繋いだ。
「あすか! そんな格好で走ったら危ないでしょう! 転んだらイタイイタイしちゃうよ!」
「やぁだ! ホタルー!!」
強引に母親の手をほどき、また駆け出す。
「あすかってば!」
もう振り返りもしなかった。
袖を揺らし、下駄の音を響かせながら、一心に蛍を追い続ける。
そんな少女を見ていると、小さい頃の自分を重ねてしまいそうで、宵はその光景から瞳をそらした。
蛍を追いかけまわしていた自分も、それを怒った母親ももういない。そのことを、改めて思い知らされた気がした。
でも今は、宵のそばには志穂がいる。
志穂も、宵にとってはかけがえのない大切な存在だった。