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Memory of Night
第8章 花火

「川見てただけだろ」
「本当に、川を見てただけ?」

 そっけなく返す宵に、『川を』の部分を強調して聞き返す。
 宵はつかの間押し黙り、やがて小さくうなずいた。

「……そうだよ」

 そのまま踵を返し、ベンチへと戻っていく。もう文句を言う気も抵抗する気もないようで、晃はほっとしながらその後ろ姿を追った。
 先ほどと同じように宵の足元にひざまづき、濡らしたハンカチを擦れた部分に当てる。
 何度かそっと押し当て、丁寧に汗や汚れを拭き取った。
 そうして最後に、ハンカチを巻き付け、晃はようやく宵の隣に腰を下ろした。

「……ありがと」
「どういたしまして」

 つぶやくような礼に、晃も応える。
 それからしばらくは、二人共何も話さなかった。長い沈黙。
 辺りは静まり返っていて、水の流れる音がわずかに聞こえるだけだ。
 晃はその音と浮かび上がる蛍の光を眺めていた。
 その時だった。
 突然口笛のような高い音が聞こえて、上空でぱん、と弾けた。艶やかに広がったのは、薄緑色に輝く花火だ。
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