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Memory of Night
第10章 雨
雨の降りしきる裏通りには、人っこ一人見当たらなかった。
車の通る気配もない。
靴が地面を踏みしめる度に、跳ねる水しぶきが学生ズボンの裾を濡らす。
晃は傘を頭上に掲げ、協立総合病院に向かい走っていた。
保健室を飛び出して行った宵の横顔が、頭の中に何度も蘇ってくる。
志穂の容態の悪化。その知らせを偶然耳にしなければ、ここに来ることはなかっただろう。
晃は明が倒れたことを伝え、保険医を連れて保健室に向かう途中で酷く慌てた倉木の声を聞いたのだった。
(でも俺が行ったところで、どんな顔して宵に会えばいいんだろう)
迷いが、晃の足を止めさせる。
保健委員会にも結局出席せずに、ほとんど衝動に任せてここまで来てしまった。
晃は委員長だった。本当は、司会進行を務めるはずだったのだが、宵のことが心配でいてもたってもいられずに、仮病を使って休んでしまった。
(おせっかいもいいとこだよな)
それでも、放っておけない。
晃はせめてもの口実にと持ってきた、クラスに置き去りにされていた宵の鞄を濡れないように胸に抱え直して、再び走り出した。