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Memory of Night
第10章 雨
病院の前には人影があった。
土砂降りの雨の中、傘も差さずにたたずみ、白い建物を見上げている。
長い髪で顔は見えないけれど、それが誰なのか一目でわかった。
「宵……っ!」
晃は雨の音にかき消されないようにと、精一杯声を張り上げた。
宵が振り返る。その動作は緩慢で、どこか虚ろな瞳がようやく晃を映す。
いったいどれほどの時間ここに立ちすくんでいたのか。宵の体は全身びしょ濡れだった。
晃が宵に駆け寄り、頭上に自分の傘をかざす。
「……こんなとこに突っ立ってたら風邪引くだろ?」
宵はなんの反応も示さなかった。
うつむいたまま、何も言わない。
「宵……?」
反抗的な言葉の一つもない宵の態度は明らかにいつもと違っていた。
心配になって顔を上げさせようと指を伸ばしたが、祭の時の約束を思い出し手を止める。
もう触れない。そう誓ったのだ。
だが代わりに、宵の手が持ち上がった。
ほっそりとした白い指が晃の頬に触れる。
その冷たさにはっとした時には、すでに口づけられていた。
宵からのキス。
晃は驚いて目を見開いた。