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ただ一つの一対
第11章 オマケ 奇跡の少女
歴史ある極道である一文字組の本家は、その威光に負けずに広い。趣ある日本家屋に、四季のたびに姿を変える庭。訪れる客は皆風流だと褒めちぎり、またそれを維持できる一文字家の財に恐れをなした。
その庭を調えるのは、一文字組の現組長、則宗の趣味である。則宗はとにかく刃物が好きなのだ。だが、銃が主流であるこの時代、集めた刃物を振るう機会はそうそうない。そんな時は、刀を鋏に持ち替え、人ではなく葉っぱや枝を切るのが楽しみであった。
その日、則宗は椿の剪定のため庭に出ていた。天高く馬肥ゆる秋、外で作業するのにもっとも心地良い気候に機嫌良く作業していると、突然背後から声を掛けられた。
「おじーちゃん!」
「……ああ?」
振り向いてみれば、そこには身なりの良い三、四歳ほどの女の子が立っていた。その子どもの顔を見て、則宗は息を詰まらせる。
「……椿」
二つに括った髪は、鴉の濡れ羽色。丸くくりくりとした瞳は活発そうで、子どもからすれば鬼のような風貌の則宗も恐れずに見上げている。その顔は、則宗が追い求めても手に入れられなかった一対の面影を、強く残していたのだ。