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ただ一つの一対
第2章 少女は夢を見る
紺色の剣道着は、端正な男の顔付きを更に引き立てる。真っ直ぐ伸びた背筋に、振り下ろされた後、揺らぐ事なくぴたりと止まる竹刀。立ち振る舞いに見惚れるのは、菖蒲だけではなかった。
「菊君、やっぱり君は筋がいいよ。ウチの娘の婿になって、道場継がないかい?」
菖蒲と共に正座し、素振りを眺めていた道場の主。菊の知り合いである初老の男は、感嘆の溜め息を吐いて呼び掛けた。
「ありがたいお話ですが、僕にそこまでの才覚はありませんよ」
「いやいや、指導者ってのは、強いからなれるってもんじゃないよ。姿勢の綺麗な人間が向いてると思うんだがね」
「では、十年後に僕の腕が衰えず、娘さんが独り身だったならお受けしましょうか」
「そんなに待たせられたら、娘がばあさんになっちまうよ、ははは」
菊はさらりと受け流すと、菖蒲に目配せする。菊とは対照的に白い剣道着がよく映える菖蒲。目を輝かせ立ち上がると、菊に一礼した。
「叔父さん、よろしくお願いします!」
「体も温まってきましたし、早速始めましょう。手加減はいりません、本気で打ち込んでください」