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第8章 準決勝　武蔵西武戦

　秋高が攻め、武蔵西武が守り、攻守が変わって今度は秋高が守る。
　攻撃に時間を使いたい一点リードの武蔵西武はMF仲村を中心にゆっくりと安全地帯でボールを回す。キャプテンのMF長谷川が大きな声を出してチームを落ち着かせる。

　残り時間は刻一刻と少なくなっていく。

　焦ったオカが相手ボールに向かって飛び込む。
　その裏に仲村が鋭いパスを突き刺した。

　すでに試合は四十五分を経過し、ロスタイムを残すのみ。ここでの失点は致命傷になる。　
　ヤスがカバーに走り、その隙間を埋めるようにイソが戻る。

　MF玉田が今まで何度も秋高DFを苦しめた鋭いサイド突破を試みる。
　しかし試合も最終盤、その足は鈍い。

　こちらは池内監督に部員全員がゾンビ化するほど走らされている。ここにきてその練習の成果が出た。
　必死に追いついたヤスが津奈木と二人で囲み込む。そしてヤスがボールを奪った。

　そのボールを下がり目に位置していたヒデに送る。

　が、しかし！

　ここまでストライカーとして先制点以降チームに貢献出来ていない小久保がこの位置まで下がってボールを足に当てた。こぼれたボールは司令塔、仲村の足元。仲村は美しいフォームで逆サイドの玉井へダイレクトパス。

　ボールは正確に玉井の走る先へ飛び、ワンバウンドしてイレギュラーな跳ね方をした。
　永友が何度もオーバーラップをして北村や山西とマッチアップしたその部分は、芝が抉られていた。交代したとはいえ北村が最後の気合でパスコースを変えたように思えた。

　思わぬ方向に跳ねたボールに玉井は反応出来ず、何の奇跡か偶然か、そこにぴったり走り込むのはイソ。
　ここにきて得意の神懸った奇跡を起こしたイソはダイレクトでボールを蹴り出す。
　今度こそボールはヒデへ届いた。

　ヒデは前に短いパス。
　俺への、この試合最後の。