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面影
第8章 動き出す
『…莉花…さんですか?』
気付いたら、そう聞いていた。
初めて会ったその人に。
『えぇ。笹原莉花です。
あなたは?私の息子の…
棗のお友達かしら?』
俺のことを不審がらず、
ふわりと笑ってみせるその人は、
名前の通り花のように
華やかで儚さを感じる人だった。
ハッと我に返り、言葉を返す。
『あ、えっと棗さんの後輩の
旭理玖です。急に声をかけてしまって
すみませんでした。』
『いいのよ。ちょうど良かったわ。
棗に伝えて欲しいことがあったの。
伝言お願いできるかしら?』
『は、はい…』
『〝私、日本を出ることにしたわ。〟
そう伝えて頂ける?』
『…日本を…出るのですか?』
『えぇ。だから10年ぶりにここに
来たの。私の世界で一人しかいない
旦那と娘が最後に見た景色を見にね。
あと。これも、もし棗と会う機会が
あれば渡してほしい。』
そう言って、莉花さんは
白い封筒を俺に手渡した。