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クラス ×イト
第11章 マえぶレ 【乾英太3】
「あ、いいんだ。とにかく、読んでみるから」
「うん。ありがとう」
「……」
どうして藍山さんが、僕にこと本を渡したのか。その意味を僕はそんなに深く、考えることはしなかった。
昨日、僕は彼女のお姉さんのことを知った。彼女がそれを話してくれた。
僕はそれを嬉しいのだと思った。彼女から頼み事をされたことが単純に嬉しかった。彼女と近づけたような気がして、とても昂揚していた。
僕が見ていた彼女の横顔は、いつだって儚げで。いつの間にか、僕はそんな彼女に魅かれていたの、だけど……。
僕はやっぱり、彼女の笑顔が見たいって――そう、思い始めていたんだ。
今、僕がこの本を読むことが例え細やかでも彼女の為になるのなら、僕は懸命に、その役目を果たしたいと強く感じいる。
もしそれで、彼女が少しでも救われるのならば……。それだけを、一心に願い。
とりあえず、本をパラリと捲った時だった。
「あれ……?」
僕が思わず漏らした声に、藍山さんが応じる。
「どうか、した?」
「いや、大したことじゃないんだけど……。お姉さんって、栞を使ってなかったのかな?」
「栞……?」
「ほら――本の端々に、幾つか折った跡が残ってる」
「……本当。でも、姉さんの他の本には、そんな跡はなかったけれど」
不思議そうに首を傾げた藍山さんに――
「じゃあ、たまたま栞がなかっただけなのかも。どの道、気にするほどのことじゃないよね」
僕はそれ以上は気を止めることなく、そう言った。
僕――乾英太が、その真の意味を知るのは、その本を読み終えた後のことになる。