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クラス ×イト
第13章 ぼウそウ 【喜嶋三生】
 家に帰ると、起き出して来た母親が小言を聞かせた。少し前の別世界のような時間から、無理やり現実に引き戻される実感。

 その瞬間の落差は、どちらが上なのか下なのか。それすら見失うと、言い様のない居心地の悪さだけが、僕の感情を支配した。

 それを暫く耐えて無言で聞き流すと、僕は自分の部屋に入る。

「……」

 机に向かって椅子に座るけど、別にやることなんてなかった。否、考えることさえ――なかった。

 昨日まで一心に向けていた僕の想いは、完全に闇の中に葬られてしまったみたいで……。それがどんなものだったのかさえ、今はもうわからなくなってしまったようになって……。

 たぶん、色々と考えて、判断すべきことはあった。

 だけど、僕はすっかりと挫けてしまっているから。視界が向く場所は、自分の足元だけだった。


「…………………………」


 それは――とても不安定な時間だったのだと、思う。

 疲れに任せ寝てしまえば、それで良かったのかもしれない。

 だけど――僕は何気に――

「……!」

 机の上に置かれていた、カッターナイフにその視線を止める。

 それを見つめていた時間は、どのくらいだったのだろう。

 それに右手を伸ばしたのは、どんなきっかけだったのだろう。

 チキチキ、と伸ばした刃を――

「……」

 どんな気分で、眺めていたのだろう……か?


 僕はそれを――思い出すことが――できなかった。





【ぼウそウ――了】
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