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クラス ×イト
第16章 しんクロ 《藍山 楓》
それは記憶に留めたかった夢が、するりと消え去ってしまうように。
「行かないで…………」
言葉尻を窄ませながら――私を苛んでいたのは、如何ともし難い虚無感だった。
「藍山……?」
ハッとする私の前には、北村先生の顔がある。
それを見て自らの所在を確かめる、と。既に海馬で交わした筈の言葉たちが、幾つかの思い出の最中に紛れ込もうとしていた。
もう、それが確かなものであったと、この私ですら思うことはできない。
けれど、それでも……いいんだ。
私は自らを鎮めるように、すうっと呼吸を――ひとつ。
そうすることで、やっと。奥底に閉じ込めていた、自分の魂が解放されたような気が、してる。
「先生……本を」
「あ、ああ……」
差し出された二冊の本を両手に取ると、私はそっとそれらを胸に抱いた。
「……」
暫くそうして、私はじっと目を瞑り。
そして、目を開き。不思議そうに私を眺めていた先生に、訪ねる。
「先生は、今も小説を書いて――?」