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クラス ×イト
第16章 しんクロ 《藍山 楓》

「否、書いていない……。もう二度と、書くことはないだろう。俺は、せめて……教師であることを止めないと、そう決めている」

 先生は噛み締めるように、そう言った。

「……」

 その意図は、明かそうとしなくても、私にはわかった気がする。

 生徒であるとして、楓姉さんの想いを拒んだ自らを律する為に……。だから先生は、教師であり続けなければならないと、その意志を示していた。

 私は楓姉さんの想いに触れた。そう感じることができたのも、先生の言葉が何一つ隠そうとはしなかったから、なのだろう。


 そう思うことができたから、私も……。


「先生――」

「ん――?」

「私には先生の罪を、決められません」

「そう、か……。藍山は――それで、いいのか?」

「はい……」


 恐らくそれは、先生が誰よりもわかっている。

 だから、私の想いをそこに割り込ませるべきでは、なかった。

 伝えることがあるとしたら……それは。


「でも……ひとつ」

「……?」

 それは、私が抱いた本に刻まれている。

 乾くんが見つけてくれたそれを、当初の私は――先生を責める為に、用いようとしていたのだと思う。

 でも、今は違う。私は純粋にそれを、先生に伝えておきたかったのだ。

 だから、折れた頁を示すこともなく。私は私の口から、それを発する。



「先生がくれた恋に、私は殉じよう」


 その言葉は、一冊目に。


「変わるものなど、欲しくはないから」


 そしてそれは、二冊目。


「……」


 それを静かに耳にした先生に、私は最後に訊いた。


「藍山楓の想いを――心に留めて、いただけますか?」


「わかった……生涯、この胸に刻みつけよう」



 それを聞いて、私は進路指導室を後にしている。
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