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クラス ×イト
第17章 エぴローぐ

「ホントはね。会わずに、行ってしまおうかと……思った」

 しみじみと、そう言われ。

「……」

 見るとその手には、大きな鞄――。

「だけど、お父さんを気遣う去河くんを見たら、思わず声をかけてしまったの」

 先生はそう前置きすると――

「立派、だね……」

 とても満足そうに、そう告げた。

「そ、そんなこと……ねえよ」

 思わず、照れる。だが、その言葉で浮かれる自分は、やはりガキであるのだと思い知るから。

 この恋に情愛で応えてくれた彼女との一夜を、要二は淡く儚いのだと感じている。


「去河くん――ありがとう」

「何でだよ! それは、俺の――」

「ううん――君が寄せてくれた想いが、私を強くしたの」

「……」

「だから、ね……ちゃんと」

 ――お別れを言いに来たの。と、途切れた言葉は、続くのだろう。それは、言わずとも。

 ならば、もう残された言葉は、一つだけ。要二はそれを、聞きたくはなかった。例え、悪あがきだとしても……。


「あ、あのさ――」


 こんな時代――遠く離れても、相手を近しく感じる方法もある。繋がっていられる――否、少なくとも繋がっているような気でいられる、そんな術も確かにあった。

 要二は思わず、それに頼ろうする――が。


 そんなダセエ真似……できる、かよ。


「いや……」


 自らの内なる声に、要二は気がつく。


 そう――これはこの瞬間に、経験しておくべき――別れなのだ、と。


 だから――


「サヨナラ……」


 要二は、自らそれを告げて――


「さようなら」


 先生も静かに、それに続いた。


 今度こそ去り行く後姿――それを見つめずに、俯いてる彼。


 だが、その数秒の後――。


「佐倉先生っ!」


 その声と共に、眩い太陽を浴び宙を舞う――オレンジ。


「――!?」


 それをその胸に受け止め、佐倉瑞穂は、もう一度――要二を振り返っている。


 その瞳を、見据え。


「大人なんて誰でも、いつかはなれるだろ。だから――」


 要二は堂々として、最後にこう告げるのだ。


「俺――――いい男に、なるよっ!」




 うん――君なら――必ず――。



 ニコッと微笑む優しい顔が、そのように――答えた。

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