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真実アイロニー【完結】
第3章 黒く塗り潰してしまったのは。
宇津木先生は、ふっと自嘲すると表情を和らげて口を開く。
「彼女は全てを諦めてるのよ」
「……どういう事ですか?」
「生きる事、笑う事、そして、誰かを愛する事をね」
「……」
宇津木先生はそう言うと、背もたれに体を預ける。
ギィっと椅子が鳴った。
「あの事件以来、彼女の笑う姿を一度も見た事ないわ」
「あの事件ってピアスについてのですか?」
「……いいえ、違うわ」
「え?」
「この話は流石に話せない。
教頭先生が話してないのなら、話す必要がないと判断したまで。
だから、私の口からは何も言えないです。ごめんなさい」
八の字に眉を作った宇津木先生は、悲しそうに微笑んだ。
きっと、これ以上聞いても何も答えてはくれないだろう。
俺は首を小さく振ると、「いえ、ありがとうございます」とお礼の言葉を返した。
「あ、でも彼女、笑うと笑窪が出来るのよ」
それにポカンと口を開けて宇津木先生を見た。
そんな俺の様子に、先生はクスクスと笑う。