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愛しては、ならない
第40章 更に抉られる、傷痕
だけど、過呼吸を起こした私を彼は助けてくれた。
黙々と背中を擦り口元に掌を充てて、呼吸が戻るまで見ていてくれた。
本当に私の身体だけが目的の人なら、そんな事をするだろうか?
それに、消え入りそうな声で確かに『おかあさん』
と呟いていた。
私の知っている彼は、いつも隙のない華やかな笑顔を纏い、軽快なジョークを飛ばして場の雰囲気を明るくする子供だ。
そうかと思えば、大人相手に取引を持ち掛ける大胆さも持っている。
それなのに私にしがみついた時の彼は、小さな少年のようだった。
『――出ていけ!』
別れ際に彼が放った怒気のこもる声が、まだ耳に残っている。
(森本君は、一体何を抱えているの……?)
彼を怖いと思うのと同じくらい、彼の心の奥に隠されている何かが気になって仕方がなかった。
メールを送り、何秒か放心していると着信が大音量で鳴って、危うくスマホを落としそうになった。