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愛しては、ならない
第52章 最後に、もう一度だけ
「……なんて顔をしてるんですか」
剛は、以前私にしたように、溢れる涙を唇で掬って涼やかに笑った。
私は、今日も泣いてばかりだ。
でも、今の涙は違う。堪らなく悲しい、とびきり塩辛い涙に違いない。
一粒、一粒……と溢れる度に痛みさえ伴う。
――剛さんが居なくなる?そうなってしまったら……この家の何処にも、居ないの……?貴方の姿を見ることが無くなってしまうの……?
「……ひょっとしたら祐樹が寂しがるかも知れませんけど……あいつも時々泊まりに来るとか……」
「……よ」
「え……?」
「駄目よ……」
「……菊野さん」
「で……出ていくなんて……っ……ゆ、許さない……っ」
私は叫び、彼の胸を拳で思いきり叩いた。