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愛しては、ならない
第53章 最後に、もう一度だけ②
「俺は……もう……此処へは戻りません」
「あ……ん……嫌っ……」
緩慢な動きで腰を廻し、彼女の瞳を見詰めてそう言うと、彼女は涙を溢れさせた。
その涙に、俺が今まで何度困惑し、惑わされ、そして恋に堕ちたのか、菊野は知らない。
施設で初めて言葉を交わした時も、貴女は泣いた。
俺は、知らずにあの瞬間から恋に囚われていたんだ。
あの日からずっと――
「……か……勝手に決めるなんて……酷いっ」
「酷いのは……菊野もそうだろう?」
「――」
「俺を欲しいと言ったのは貴女だ……なのに、もう近寄るなと突き放して……
なのに、こうして俺を拒まない……」
「そ……それは」
彼女の瞳から大粒の涙が溢れた瞬間、俺は力の限り彼女を抱き締めて、突き上げた。
悲鳴が家中に響く。