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愛しては、ならない
第23章 滅ぼせない恋情②
――柔らかい……
俺は菊野の手を握り、そのまま抱き締めたくなる衝動と闘っていた。
桜の花弁がちらちら舞う中に佇む菊野は、悟志の妻でもなく、祐樹の母でもなく、まるで、道に迷う途方に暮れた小さな少女に見えた。
彼女の瞳は、心は、今何を見て、想っているのか。
一番にその胸の中にあるのは、愛しい夫の回復を願う気持ちなのだろうか。
花野と祐樹が、菊野を
"パパはきっと大丈夫"
と言って慰めていた時、俺は三人の中に入り込めない空気を感じていた。
当たり前だが、やはり、この人達は、血で繋がっている。
この家の中で、繋がっていないのは俺だけだ。
分かりきっているその事実が、何故か急に鋭い刃の様に胸の中を抉り出す。